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2007年2月 3日 (土)

ゴンダール

ナイルの源流、エチオピア最大の淡水湖であるタナ湖の東方に位置する古都ゴンダール。そこに、ヨーロッパ人が「不思議の城」とよんだファシリデス王の城があります。17世紀初頭に建造されたこの城は、1979年、世界遺産に登録されました。17世紀、時の国王ファシリデスは、それまで低地にあった領土をマラリア禍のため放棄し、標高2000mのゴンダールに新たな王国を築きます。1636年、王はゴンダールをエチオピアの首都と定め、それから230年にわたってゴンダールは商業と文化の中心になりました。

<ゴンダールの城>
ゴンダール王朝時代に造られた6つの城と12ヶ所の城門が残されています。ファシリデス王の城、ヨハンネスI世の図書館など、中世の要塞を思わせる威風堂々とした姿は、ヨーロッパ人をして「不思議の城 (House of Wonder)」と言わしめました。原型をとどめない建物もありますが、その中にはイヤス王の宮殿のように、第二次世界大戦中、イギリス軍に空爆されたものもあります。

<デブレ・ブラハン・セラシエ教会>
ゴンダールには44の教会があったと言われていますが、そのほとんどは19世紀にあったイスラム教徒との争いにより破壊されました。この教会は17世紀にイヤス王によって建てられたもので、オリジナルのまま残っている貴重な教会です。内部は色鮮やかなフレスコ画で埋め尽くされています。特に天井には、神の力を示したといわれる、あらゆる方向を向く80体の天使が描かれています。

■インプレッション
正直、ゴンダールはあまり期待していませんでした。エチオピアの世界遺産として有名なのは、やはりラリベラ、そしてアクスムです。日本で買ってきた世界遺産ガイドブック (文庫本) にも、この2ヶ所しか紹介がありませんでした。そんなわけで、「せっかくゴンダールに来たんだから、まぁ行っとくか」といった軽い気持ちで出かけました。

だいたいエチオピア国内のどこでもそうですが、役所や観光地を問わず、まず入り口の門番の態度にカチンと来てしまいます。なんでこの人達はこんなに偉そうなのか。目の前でチケットを買っているのにそのチケットを見せろと言ってくる。門番との距離は5m、けっして彼はその場を動きません。こちらが歩み寄らねばならないのです。さらに、「ガイドがいるからそいつと一緒に行け」とそう言います。しかしどこにもそんな人はいません。どこにいるのかと聞くと、今誰かについて回っているから、帰ってくるまで待てと言います。あと何分で帰ってくるとか、実はガイドを付けるのが義務だとか、そういう説明は一切しません。2、3分はそこにいましたが、いい加減ばからしくなったので、何か言いたげな門番の視線をふり切り、一緒に行った運転手と中に入っていきました。特に追いかけてもこなかったし、なんだったんだ?

敷地を歩くとほどなくヨハンネスI世の図書館があります。エチオピアの始まりが聖書の登場人物にまでさかのぼれるという口承伝説をまとめた「ケブレ・ネゲスト」もここで発見されました。その先に建つ、要塞のように重厚な建物がファシリデス王の城です。目に飛び込んだ瞬間、思わず「うっ」と小さくうなってしまうほど、その存在感は圧倒的なものでした。小走りに建物まで近づくと、2回の入り口に続く階段の下から建物を眺め、あらためてその大きさに見入ると、ちょっと小躍りするくらい感激してしまいました。

ファシリデス王の城は高さ32m、最上階からは64km先のタナ湖が見えるといいます。内部は天井が高くガランとしていますが、天井には太い梁が何本も渡され、この城の頑丈さを物語っています。大きな窓を風が吹き抜けるため、外の暑さはまったく感じません。ガイドブックにはポルトガル・フランス様式と書かれていますが、アラブとかインドあたりの雰囲気が濃厚に漂っています。バルコニーに出て外を眺めると、まさに気分爽快。しばし往時の人々の暮らしぶりに思いを馳せます。ファシリデス王の城の他にも、この城壁の中には見所が満載です。

続いて、ガイドブック曰く「エチオピアで一番有名な教会」です。町の人に道を聞きながら、デブレ・ブラハン・セラシエ教会を目指します。15分ほど町をぐるぐる走りましたが、結局自分が泊まっているホテルの裏手にあることが判明し、運転手も苦笑いでした。チケットを買って中に入ると、これまたずいぶんと小さな教会です。しかしなんとなく古い様式美を感じさせることも事実で、少し緊張して内部に入りました。中に入った途端、たぶんほとんどの人は我が目を疑うほど驚いてしまうでしょう。内部の壁一面が極彩色の絵で埋め尽くされ、圧倒的質感を持って迫ってくるのです。正面の祭壇には磔刑に処されるキリスト、左右の壁にもさまざまなストーリーが描かれています。一瞬で人をひきつける魅力的な絵の数々。しかしその意味がわかりません。この時ほどガイドを連れていなかったことを後悔したことはありません。

天井を見上げると、そこには80体の天使が描かれています (80体とガイドブックに書いてありましたが数えてはいません)。天使はあらゆる方向を見ているため、どれかは必ず目が合ってしまうそうです。それにしてもよくここまで執拗に描いたなぁと、いまさらながら人々が宗教にかける情熱にため息が出ました。これが当時のままに残っていることも奇跡に近いのではないでしょうか。ちなみに教会内部はフラッシュ禁止なので、今回はデジカメをISO 1600に設定して撮りました。それでもけっこうぶれた写真がありました。しかしゴンダールは良かったです。ラリベラでがっかりしたあとだったので、感動もひとしおでした。

■ゴンダールこぼれ話
この時は9日間かけてエチオピア北部の村々を巡る出張中でした。ちょうどツォム (断食=肉を食べない) の時期で、ただでさえ地方に行くと食事のグレードが下がるのに、いつもより輪をかけて厳しい食事が続いていました。ゴンダールに着くまで1週間、毎食ほとんどインジェラとシュロワット (豆のペースト)。ひとつの大皿にみんなで手を伸ばして食べるためか、1人また1人とお腹をこわしていく毎日。「肉が食べたいッ!!」 近年これほど強烈に肉を欲したことはありませんでした。そうしてたどりついたゴンダール。観光客がよく泊まる少々高めのホテルにチェックインすると、同行のエチオピア人たちはいつものように安いホテルを探しに行くと言いました。「じゃあ、昼食は別々にしようか」 私がおそるおそる切り出すと、みんな快く承諾してくれ、出張に出て以来初めての食事別行動となりました。

私の目的は肉食以外の何物でもありません。レストランに顔を出し、何か肉料理はないかとたずねると、相手は申し訳なさそうに「ツォムなんでスパゲティ・ミートソースしかないよ」と言いました。とにかくあるだけましです。なんの躊躇もなくそれを注文し、部屋 (ロッジになっている) まで持ってくるよう頼みました。待つこと30分、ようやく部屋がノックされたときは「キターーー!!」と心で叫んでしまいました。スパゲティから立ち上るミートソースの香りにほとんどむせび泣いていたかもしれません。ジューシーなソースをたっぷりからませて、ひと口、ふた口とスパゲティを口に運びます。「エチオピアって料理うまーーーい!!」 とにかくその瞬間は心の底からそう思いました。空腹と渇望は最高のスパイスなんですね、やっぱり。

目を輝かせてスパゲティをハグハグとかき込み続け、半分ほど食べ終えたときです。ふと、ソースの中に黒い物体が見えました。「?」 少し小首をかしげたものの、あまりちゃんと確認もせず、もうひと口と、黒い物の近くからスパゲティを巻き取りました。「タマネギがこげたやつだよ」 そうやってわざと声に出し、自分に言い聞かせるように目をつむりながらスパゲティを口に放り込みました。しかしすでにこの時、最悪の事態は想像できていたのです。ただ、たとえ数秒であっても、幸せな時間を少しでも長く味わっていたかったのです。そうして、審判の時は訪れました。案の定、黒い物体はゴキブリでした。あの時は魂が抜けるほど深いため息をつき、脱臼するくらいがっくりと肩を落としました。あれほど輝いていた珠玉のひと皿は、急速に色と温度を失い、無機質な何かに変わっていきました。

結論から言うと、ゴキブリをそっとお皿の外につまんで出すと、あとは黙々と最後まで食べました。何の楽しみもない、ただ空腹を満たすだけの食事。味を感じればたちまち「ゴキブリエキス」などという単語が頭をよぎります。「味わってはいけない」 そう念じながらの苦行にも似た食事でした。食べ終わったお皿にゴキブリの死骸を戻しておいたのは、私なりのささやかな抗議です (涙)。

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