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2007年2月 1日 (木)

アムハラ語

エチオピアではアムハラ語 (公用語)、ティグリニャ語、オロモ語、グラゲ語など80以上の言語が話されています。アジスアベバでは比較的英語が通じますが、片言なりともアムハラ語を使うことで、生活はより快適になります。ただ、アムハラ語は動詞の変化が複雑で、発音に関しても独特の破裂音や、母音が7音あるなど、本格的に習得するにはかなり難しい言語だと言われています。私も最初は、せめて職場のスタッフ (特に掃除をしてくれる人) との会話はなんとかしたいと思っていたのですが、掃除の指示などは「アフン (今)」 「ボハラ (後で)」くらいで、後は身振り手振りでなんとかなってしまったのも事実です。そんなアムハラ語ド素人の私ですが、ある時一念発起してアムハラ語の単語集作りをするためようやく少しだけ身を入れて勉強しました。元をたどれば同じ仲間であるアラビア語については昔まじめに勉強したので、そのあたりのことにも少しふれながら、アムハラ語について記します。

<セム語>
アフロ・アジア語族 (セム・ハム語族) のひとつ。西アジアから北アフリカにかけて発展。北部を代表する言語はアッカド語。アッカド語は最古のセム語で、紀元前3000〜前1000年ごろメソポタミアで話され、その後も1000年ほどは文語として用いられました。アッカド語のうち北部方言をアッシリア語、南部方言をバビロニア語と呼ぶこともあります。北部中央グループにはヘブライ語、ウガリト語、フェニキア語、アラム語があります。南部中央セム語としてアラビア語があります。アラビア語からマルタ語が分かれ、マルタ島で話されています。

南部周辺グループは、アラビア半島南部で話されていた南アラビア語と、エチオピア諸言語からなります。南アラビア語は古代サバ王国などで話されていました。エチオピア諸言語は、今は文献や典礼言語として残るゲエズ語と、現在も話されているアムハラ語、オロミア語、ティグリニャ語などが含まれます。

<特徴>
セム語では、一般的に単語は基本的な意味をもつ「語根」と呼ばれる3つの子音から構成されています。例えばアラビア語で「K-T-B」は「書くこと」を意味し、ここからマクタバ (本屋)、カーティブ (小説家)、キターブ (本) などの単語が作られていきます。さらに、単語の語頭に「マ」を付け「Ma-u-a-u」とすれば「それをする場所」を表し (マクタブ=書く場所=事務所)、「マ」を付け「Ma-u-uu-u」とすれば「すること」を意味します (マクトゥーブ=書くこと=手紙)。動詞についても語根を中心として人称にしたがって変化し、ヤクトゥブ (彼は書く)、ヤドゥルス (彼は勉強する)、ヤジュリス (彼は座る) のように、どの語根も規則性をもって変化します。(アラビア語の場合、ひとつの語根が1形から10形まで変化して意味のバリエーションが出来ますが、人称変化は規則性を保っています)

アムハラ語の場合、名詞についてはアラビア語ほど整然とした規則性・汎用性は見あたりませんが (あくまで素人の意見です…)、動詞については同じように語根を中心として規則性をもって変化します。セム語族がたがいに密接な関係にあることは、同じ語根が共通に見られることからわかります。「S-L-M」という語根は、アッカド語、ヘブライ語、アラム語、アラビア語、アムハラ語ともに「平和」を意味します (サラームなど)。アラビア語とアムハラ語の共通単語については、これまで私が見聞きしたなかでは、1割弱くらいはそうだと思います (むしろティグリニャ語の方が共通点が多いかもしれません)。

<動詞の変化>
動詞の変化については、語根を中心として人称にしたがって変化するので、学生時代にアラビア語で苦労したことを思い出しつつも、個人的には「とっつきやすい」ものです。基本語根は語頭に「マ」を付け「〜すること」という意味を持ちます(「マ」が付くところがまたアラビア語っぽくて親近感をおぼえます)。以下、何例か記します (実際は複数形や丁寧形もあります)。「...」には語根が入ります。ただし、母音の発音はカタカナやアルファベットでは表現しきれず、未完了形語頭の「i」はイとウの中間くらいの感じで発音します。例えば「I want」は「イファッリガッロー」と「ウファッリガッロー」のどちらでも良いような感じです。

*完了形
I did : ...ow/ku
You did (男): ...h/kh
You did (女): ...sh
He/It did : ...a/e
She/It did : ...ch/ach

*未完了形
I do : i...allo-
You do (男): tu..allah
You do (女): tu...allesh
He/It does : yi...al
She/It does : tu...allech

こういった変化はアラビア語と同じような感じです。さらにアラビア語には未完了接続形やら短形があって、おまけに受動態まであるので、規則的なのは良いのですが、規則が多すぎてかなり苦労した思い出があります。しかし当時からきちんとした文法書があったこともあって、なんとか学校の試験はクリアーしていました。こんな感じなので、アムハラ語もなんとかいけるかなとたかをくくっていたのですが…。

*未完了否定形
I don't : al...m/um
You don't (男): at...m/um
You don't (女): at...m/im
He/It doesn't : ai...u/um
She/It doesn't : at...m/um

うーん、否定形まで動詞の変化で表すのかぁ…。このことを知ったときはちょっと目の前が暗くなりました。「ウワッダッロー (私は好きです)」と「アルワッドゥム (私は好きではありません)」はいろいろな意味でちょっと違うなぁ…。「Mawdad (好きであること)」から語根を「W-D-D」と拾い上げ、すかさず人称変化 (肯定形 or 否定形) を当てはめるのはなかなか難しいものがあります。外国人向けとしては、エチオピアではこれしかないという文法書を買ってきたら、現在完了形や過去完了形も変化の仕方が少しずつ違っていました。過去進行形や現在進行形の変化も、ちょっと想像の範囲を越えています。使役の変化もあって、いろいろ規則的なのはわかりますが、どうにも面倒くさい。

「それを持ってきた」とか「彼を呼んだ」などのとき、動詞に非分離形人称代名詞が付くのはアラビア語も同じなので理解できますが、少なくともアラビア語は動詞の最後に人称代名詞が付くので、それほど難しいとは思いませんでした。しかしアムハラ語では、どうも人称変化している動詞の最後ではなく間に入っているようなのです。文法書には動詞の実際の変化例が (アルファベットで) いくつか書かれていましたが、とにかく目がチカチカして全然頭に入ってきませんでした。「You take」が「トゥワスダッラフ」だったら、「You take me」は「トゥワスダッラフニュ」と最後に非分離形人称代名詞がついてほしいと思うのですが、実際は「トゥワスダニャッラフ」と間に入ります。とにかくおぼえづらい…。「I want」が「イファッリガッロー」なら「I want you」は「イファッリグシャッロー」で良いのか… (規則に当てはめてみての推測)。規則を作っておきながら、これでは結局いちいちおぼえなければならない。ま、語学なんて地道に暗記していくものですが…。

ということで、ほんの一時期ではありますが集中的に勉強したかいがあって、エチオピア滞在の最後の方は多少なりとも意思の疎通はできるようになりました。でも、こちらが少しでもアムハラ語で話すと、今度は向こうからまったく遠慮なしにアムハラ語でべらべらと話されるので、結局いつも「イクルタ (すみません)」を連発していました。冷や汗ものでしたが、言葉が通じる喜びというものを久しぶりに感じたエチオピアでした。

アムハラ語単語集

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コメント

shukranさん
こんにちは。

素敵なサイトですね。

やぶからぼうにスミマセン。
ちょっと、教えてください。

Shukranさんはアムハラ語で書かれた手紙を解読できますでしょうか?

私は日本の川越市(埼玉県)で翻訳事務所を営んでおります。アムハラ語の手紙の内容を把握する必要が発生し
国内であちこち人を探しているのですがなかなか行き当たりません。

で、〝アムハラ語〟で、検索してみたらこのサイトに遭遇し、お尋ねした次第です。

お返事いただければ幸いです。   寺井

投稿: terai | 2012年3月17日 (土) 08時16分

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