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2008年2月 3日 (日)

千夜一夜の美女:心の力 (1)

「ガァネム・ベン・アユゥブとその妹フェトナァの物語」より

物語の題名が「兄と妹」なので、そっち系の禁断のストーリーなのかと思えばさにあらず。妹は最後にカリフ(教主)の妻にはなるものの、ほとんどストーリーには絡んできません。物語の主役はガァネムと、彼の心を奪うクゥアト・アル・クルゥブ(心の力)です。始めに恋に落ちたのは男。しかしある事情により女は拒みます。ある夜、ついに女は身の上を語り、これまで彼を拒み続けていた理由を明かします。すると、それを聞いた男は女に手を出せなくなってしまいました。ここから逆になんとか男を奮い立たせようとする女。しかし男の決意は固く神の名を称えるばかり。この逆転の妙。

偉大な商人の父を亡くしたガァネムは、母と妹のもとを離れ、遠くバグダッドに赴き商売を始めます。ある時、バグダッド郊外の町に葬式に出かけたのですが、夜半に戻ってくるとすでに町の門は固く閉ざされていました。夜盗との遭遇を恐れた彼は棕櫚の木によじ登り夜明けを待ちます。そこに現れたのは黒人の宦官3人。彼らは夜通し地面に穴を掘り、ついには担いできた大きな箱を埋めてしまいました。好奇心が抑えきれないガァネム。朝日が昇るのを待って箱を掘り出すと、その中にはひとりの乙女が眠っていました。乙女の姿は次のように描写されています。

この乙女は比類なく美しく、得も言われぬ微妙で穏やかな繊細な顔の色をしていた。彼女は金銀、宝石やあらゆる装身具で飾られていた。首には雅な宝石の象眼された金の首飾りをつけ、耳にはただひとつの見事な宝石の耳飾りを下げ、足の踝と手首には黄金とダイヤモンドの環をはめていた。これらは太守の全領地よりももっともっと値打ちのあるものに違いなかった。

ガァネムは乙女の美しさにすぐに夢中になりました。息を吹き返した後に事情を聞くと、何者かに命を狙われたとのこと。二人は相談し、周囲に気付かれぬよう、彼の家に移動しました。ガァネムの家に着いた乙女が部屋を見渡すと、そこには高価な家具や珍しい壁掛けがたくさんあり、またガァネム自身がとても美しい青年だったので、乙女もすぐに気を許し、「おぉ、ガァネム。おわかりでしょうが、私はあなたの前にいながらいささかも顔を覆ってはいません。けれども私はとてもひもじいのです。何か食べるものを持ってきてください」と頼みました。

ガァネムはさっそくスーク(市場)に出かけ、塩で焼いた子羊、バグダッドの菓子屋の中でも一番有名なハッジ・ソレイマンの店で最上級の菓子を一皿とハラウァ(バタービスケット)、アーモンド、ピスタチオを買い、他にもあらゆる果物、古い酒がなみなみとつまった瓶、それにあらゆる色の花などを買って戻りました。乙女は大変喜び、ここから次のように描写されています。

彼女は彼に微笑みかけ、彼を抱いて腕を彼の首に巻き付け、抱き寄せて甘い言葉をかけ、気も遠くなるようなことを数限りなく言い始めた。ガァネムは愛し恋しい情が皮膚と心臓に染みこんで来るのを感じた。そして二人は夜の帳の下りるまで食ったり飲んだりした。この間、ゆっくりと彼らは互いになじみ合い、愛し合うことができた。それに二人は同い年であり、また劣らずに美しかったのだ。夜がやって来た時、ガァネム・ベン・アユゥブは立ち上がって釣り蝋燭と大蝋燭に火を入れた。広間は蝋燭の光よりも二人の顔の輝きによってより一層明々と照らし出された。そしてガァネムは様々な遊び道具を持ってきて、乙女の傍らに座り、自らも飲み、また彼女にも飲み物を注いでやり、彼女の杯を満たしては彼女とともに飲み続け、また心楽しい数々の遊びをし、笑い、ひときわ熱く激しい唄を歌い、調べ高き詩を詠んだ。これらは二人が心心に感じていた情熱を一層あおり立てるばかりであった。ガァネムと乙女は暁の光の射し来るまで嬉しき戯れと饗宴を一刻も途切れさせなかった。やがて眠りが二人の瞼に重くのしかかってきたので、二人は互いの腕に抱き合って眠った。しかしこの日は二人に定まりをつけるようなことといっては何もしなかった。

翌日もガァネムはスークに出かけ、肉や野菜、花や果物や酒を買い込み、またも二人で腹一杯になるまで食べます。食事の後は酒を楽しみ、二人の顔が赤く火のように燃え上がり、眼がひときわ黒く輝いてきた頃、二人に次のようなやりとりが始まります。

「おぉ、我が姫よ。あなたを抱いて口吻することをお許しください。口吻が私の五臓六腑の熱火を冷ましてくれますように」 彼女は答えて、「あぁ、ガァネム。今しばらく待ってください。酔いが回り、もろもろの慎みと分別を私が失うまで。そうしたら秘かにあなたが私の唇に口吻することを許しましょう。あなたの唇が私の唇を吸うその時は、もう私は感じますまいから」と彼女は言って、いささか酔いが回り始めたので、立ち上がって身につけたものをみな脱ぎ捨てた。身にはただ薄い下着を、髪には金箔つきの白綿の軽いヴェールを残しただけで。これを見たガァネムは欲情に動かされて言った。「おぉ、私の愛しい人よ。今はあなたの口を味あわせていただけますでしょう?」 乙女は答えた。「アッラーに誓って!。まこと私がお許しできない訳は、ここにあるのです。愛するガァネムよ。私のカルソン(ズボン)の紐に、本当に生憎なことが書かれてあるのです。そして今それをあなたにお見せする訳にはゆかないのです」

ガァネムは狂おしい衝動にさいなまれます。乙女も情熱のあらゆるしるしを彼に示すのですが、しかし何ひとつ許してくれません。夜の帳が下り、蝋燭に火が灯されると、ガァネムは次のように心中を叫びます。

ガァネムは乙女の足許に身を投げ出し、美しい足に唇を押しつけた。彼女の足は乳のように、またできたての牛酪のように甘く融けるようだった。彼は頭を彼女の足の間に入れ、脛までも、またもっと上の方へ、そして素早く頭を腿の間に埋めて、香しく暖かく麝香や薔薇やジャスミンの香り高い肉をば味わい始めた。彼女はおとなしい牝鶏のように身体中の翼を震わせていた。物狂ったガァネムは、「おぉ、愛しい人よ。あなたの愛の奴隷、あなたの眼に征服され、あなたの身体で殺された者にどうぞ憐れみを。あなたさえいなければ、あなたさえおいでにならなかったら、私は心静かに安けらく暮らすでしょうに」と叫んだ。

ガァネムの願いも空しく、ある理由によってどうしても彼のものになることはできないと頑なに拒み続ける乙女。そしてこのような満ち足りない戯れ事が、1ヶ月も続いたのです。そしてついに、ガァネムはある行動に出ます。

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