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2008年2月23日 (土)

ホラー映画 -アメリカ-

映画大国アメリカには、「怖い映画」はそれこそごまんとあります。異常心理者を描いたサイコものから動物パニックまで、観客を怖がらせ、かつストーリーが面白い名作映画がすぐに何本も思いつきます。逆に言えば、怖い映画というカテゴリーの中でホラー映画の占める割合は、日本ほどには大きくないのかもしれません。さらに、人種のるつぼとも言うべき国民の出自の多彩さからか、あるいは莫大な映画予算に裏付けられた先進映画 (別名、泡沫映画) の多産システムがあるためか、ホラー映画というくくりの中でもさらに細分化されたサブカテゴリーが生まれました。オカルトホラー、ゴシックホラー、モンスターホラー、絶叫ホラー、スプラッタホラー、超能力ホラーなどなど。

アメリカでは1930年代からまずドラキュラやフランケンシュタインなどの怪奇・怪物映画が作られます。これらの異形の者たちに人間が襲われる様は、当時の観客にとっては背筋が凍るような思いだったでしょう。日本ではここまで攻撃的にキャラが立った怪物はいません。せいぜい鬼、天狗、河童。いずれにしても古くから民話で伝えられるものなので、逆に人間の生活に近すぎるというか、恐怖よりも親近感が先に立ってしまいます。「四谷怪談」に見られる人間の怨念をベースにした幽霊譚など「霊的なもの」にゾクリとする怖さを感じる日本人とは、少し感性が異なるかもしれません。この点は、古い歴史を持つ国と、せいぜい入植300年の新しい国との違いでしょうか。

1960年代になると、アメリカでは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「血の祝祭日」などの「モダンホラー」が華々しく登場します。怪物ものからモダンホラーへ一足飛び。やはり幽霊のような情緒的なものは受け入れられる余地はなかったのでしょうか。1970年代に入ると、「エクソシスト」という極めつきの傑作ホラーが公開されます。個人的にも怖さベストワンの映画ですが、主題は「悪魔祓い」。悪魔と言われても、日本人は正直ピンと来ないでしょう。日本だったらさしずめ閻魔大王だし、するとなんかギャグ的な響きが…。しかしキリスト教徒にとっては、幽霊と悪魔だったら断トツに悪魔の方がリアリティがあるということなんでしょうね。たぶん幽霊は「たたずんでいる」もので、不気味だけれど人に危害を加えるというイメージがないのかもしれません。

さて、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、ゾンビに追い詰められるという絶望的なシチュエーションが怖すぎでした。「あんなのに追いかけられたら怖いに決まってるだろ!」と思った人は多いでしょう。緻密に構成された空間の妙、ゾンビ1人でも怖いのに集団、しかも感染する、倒すには頭部を破壊…。どうすれば人が怖いと感じるか、細部まで計算されたホラー映画であり、日本のように「人は幽霊を怖がる」という漠然とした前提に立って作られたものとは大きな違いがあります。情緒を廃し、徹底的に理詰めで恐怖を演出した、まさに「モダンホラー」という名にふさわしい傑作です。

面白いのは、日本で死体が生き返る場合、だいたい白装束に青白い顔で弱々しくすぅーっと近寄ってくるのに対し、アメリカではだいたい服はボロボロ、体は腐乱していて蛆まみれ、たどたどしいながらも確実にこちらに向かって歩いてくる、というパターンの違いです。

「血の祝祭日」は、その後のスプラッタ映画 (本作はゴアと言っていた) の方向性を決定づけた、ある意味「名作」です。怖いという前に、気持ち悪い。でも、一部の観客は熱狂的に受け入れ、その後の同分野の隆盛を築きます。「怖い」とはまた違う「怖いもの見たさ」というニーズを掘り起こした功績は大きいでしょう。まぁ、あまり良い趣味とは言えないですけどね。特殊メイク技術の発達には貢献したかな。

1970年代以降、この分野では「殺人鬼」という新世代のヒーロー(?)が生まれます。レザーフェイス(悪魔のいけにえ)、ブギーマン(ハロウィン)、ジェイソン(13日の金曜日)、フレディ(エルム街の悪夢)など、どれも強烈な面々です。ただし、これらのスプラッタホラーあるいは絶叫ホラーと呼ばれる映画は、怖くはないですね。明確なストーリー性はなく、どれも基本的に「おどかし」。ただし観る方もそれは承知の上で、「ギャーー!」と叫んでストレスを解消するという、考えてみたら変な趣旨の映画ですね。ジェットコースターに絶叫しに行く、という心理とあまり変わらないでしょう。

でも、確実にニーズはあります。シリーズ化されるとすぐにセルフパロディに走るのがいかにもアメリカ的で、こうなると叫ぶのすら難しく、ゲラゲラ笑いながら人が殺されていく様を観るという、不思議な空間が演出されることになります。「絶叫の女王」という妙な称号までありますね。古くはジェイミー・リー・カーティス、最近ではナオミ・ワッツなど。「死霊のはらわた」「死霊のしたたり」は大好きな映画ですが、これらには殺人鬼は出ません。個人的には殺人鬼ものは嫌い。民衆はわがままなものです。で、残酷に人が殺されていくわけですが、リアリティとけれん味がほどよい味付け加減で、安心して怖がれるという、これまた変なテイスト。ホラーとはエンターテイメントなり!?

しかしアメリカの底力はこんなものではありません。大人の鑑賞に耐える怖い映画も多数作られています。「シャイニング」は、雪に閉ざされたホテルで孤独に耐えきれず発狂した男が殺人鬼になるというシチュエーションホラー。狭い空間で殺人鬼に追いかけ回されるというのは確かに怖いです。ジャック・ニコルソンの顔からして怖いし。スティーブン・キングの原作ではホテル自体が超自然的な力を持ち、男を発狂へといざなうようですが、映画版での描写は少し違っていました。

ちなみに、スティーブン・キングがよくモチーフに使う超自然 (スーパーナチュラル) は、アメリカ人にとって本当に怖いと感じるものなんでしょうか。日本では、得体の知れない力、人知の及ばない力として幽霊または妖怪があげられると思いますが、アメリカ人 (というかキング) にとっては、それがスーパーナチュラルなんでしょうか。古来、自然を愛でてきた日本人にとっては、スーパーナチュラルは畏敬する存在ではあっても、恐怖にはつながらないんじゃないでしょうか。いや、スーパーナチュラルの定義がそもそも曖昧ですね。個人的にはちょっとSFよりの匂いがして、土着的なホラーには結びつきません。ラブクラフトもホラーではなくSFダークファンタジーとして好きだし。

自分にとって怖いホラー映画といえば (変な言い方ですがアメリカには笑えるホラー映画もあったりするので…)、これはもう「エクソシスト (1)」に尽きます (アメリカの場合、宗教や悪魔がからむとホラーではなくオカルト映画と呼ぶようですが)。霊の存在を信じさせるに足る伏線の張り方と鮮烈な描写。現代医療現場における非人間的な医師たちによる無情な治療。若い神父の苦悩と孤独。凄絶な悪魔払いの儀式。登場人物はそれぞれ悩みを抱えて深刻な顔色だし、街の表情そのものが硬く冷たい。とにかく、こんなに画面の中の温度が低い映画はありません。最初から最後まで、吐く息が白くなるような寒さを感じさせる孤高の名作です。しかもあの音楽。マジで怖すぎる (Xファイルの音楽もかなり怖いですね)。

メリン神父が息絶えた後、若いカラス神父は自分の体に悪魔を乗り移らせ、自ら窓の外に飛び降り悪魔もろとも死んでしまった、という設定ですが、どう考えても悪魔は滅びていません。なので「悪魔の勝利を描いた映画」として、アメリカやイギリスなどキリスト教国ではヒステリックに糾弾されたそうです。日本人が思うような「ただの映画じゃん」では済まされない、心の深部にリアルに訴えかける恐怖感がキリスト教徒には感じられたんでしょうね。あるいは神への冒涜。名作ですが、ディレクターズカット版のスパイダーウォークは必要だったのかな? (DVD買いましたけど)

次に「ローズマリーの赤ちゃん」。オカルトものですが、心理サスペンスとしてそれ以上の傑作。でも、もっとホラーホラーしたホラーが好みなんです (←わかる?)。「センチネル」は名作の皮をかぶった駄作のような気が。「オーメン」はキリスト教的な怖さが結局は良く理解できていないと思うし、最後のダミアンの入れ替わりは「うまい!」と思ったけれど怖くはなかったです。「トワイライトゾーン」みたいな怖いというより奇妙な映画は、おとぎ話の延長。「ポルターガイスト」は最初はけっこう良い感じでしたが、子供が向こう側に連れて行かれたあたりから、ホラーではなくダークファンタジーになりました。むやみに霊をCGで描くのもいただけません。

「悪魔の住む家」(オリジナル版)は家そのものが意志を持って人間を襲う物語。実際に起きた事件をドキュメンタリータッチで描く、という世界観にどこまで入り込めるかですね。起こる出来事はけっこう地味。やっぱりスーパーナチュラルはダメかな。ただ、「シックスセンス」もたぶんホラーというよりスーパーナチュラルなんでしょうけど、かなり怖くてドキドキしました。全体に漂うひんやりしたトーンも素晴らしい。しかしそれ以上にドラマ性が高いので、最後は怖さよりも切なさの方が大きくなり思わず泣けてしまうという、ジャンルを超えた傑作だと思います。でも、自分は怖がりたいんですよね (←注文がうるさい)。

「ヘルレイザー」はもうスプラッターの様式美。アメリカ人は本質的にカラッとして善悪がわかりやすい映画が好きなんですね。そう考えると「エンゼルハート」はかなりの異色作でしょうか。ホラーというよりはハードボイルドタッチのオカルト・スリラーですが、その雰囲気作りは最高です。結末も後味悪くてグー。

うーん、語り尽くせません。

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