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2008年4月27日 (日)

魔王ドリアン

初めてドリアンを食べたのは、東京での学生時代。インドネシア語科の友人と連れだって、"高級"インドネシアレストランに行った時のことです。そのお店では、同じくインドネシア語科の友人がアルバイトをしていました。インドネシアにも旅行したことのある友人たちは、さすがに的確に「これとこれとこれだったら、そんなに高くないし初めての人にも食べやすいよ」と言って、パパッとメニューを選んでくれました。運ばれてきた料理は、なるほどどれも食べやすく、たちまちお皿は空っぽになっていきました。一通り料理を楽しんだ後、「さて」といった感じで、1人がちょっと姿勢を正しながら、「あれ、いっとく?」と意味深な発言をし、バイトの友人を呼んで、「ドリアンひとつ」と伝えました。

一応その名前だけは知っていたので、「おー、ついにドリアンを食べるのか」とワクワクしながらその登場を待ちました。数分後、白いお皿にデロンと乗せられた、クリーム色の物体がテーブルに届きました。薄暗い店内だったので、顔を近づけてもっとよく見ようととした瞬間、いきなりムッとする臭気に鼻がツーンとしてきて、思わず顔をそむけてしまいました。そして目をシバシバさせて、「何これ!?」と友人たちに聞いてみると、なんだかみんなニヤニヤと好奇な目をこちらに向けています。「ま、食べてみてよ」とみんなは言うのですが、このタマネギが腐ったような、ドブ川のような、干からびた犬のフンのような、およそ果物とは思えない異様な臭いは一体何なんでしょう。

「本当においしいんだから」と言いつつ、友人はスプーンでそれをひとすくいしてパクリと口に運び、「く~、おいしい!」とうなるようにその味を絶賛するのですが、それを聞いてもまだこちらは及び腰です。しかし、他の料理に比べたら、断トツに高いドリアン。貧乏学生の食事会ですから、なんとしても割り勘負けは避けたいところです。おそるおそるスプーンの先にちょっとだけつけて、目をつぶって思い切りパクッと口に入れると、「お!」と小さく声が出るくらい、驚きの甘さが感じられました。例えて言うならカスタードクリームのようなクリーミーさと甘さ。「えぇっ!?」とのけぞっていると、周りはもう大笑いです。そしてみんな「でしょ?」と言うものですから、こちらもあわてて「うん!」と答えずにはおれなかったわけです。

ドリアンの味だけとったら、まちがいなく果物の王様でしょう。あの甘さは唯一無二。天然のものとはにわかに信じがたいほど、濃厚な甘味を持っています。ただ、あまりにも臭いが衝撃的なことから、人呼んで果物の魔王。こちらの方が呼び方としてはふさわしいと思います。見た目もトゲトゲで暴力的な感じがするし、ドリアンを凶器に使った「ドリアン殺人事件」なんて、あながちないとも言い切れないでしょう。くさやとかナンプラ (魚醤) の臭いも相当きついですが、それは臭いが極端に濃いだけであっ、何万倍かに希釈していけば、やがて食欲をそそる良い香りに変わります。これとは違ってドリアンは、なんだか決定的に食べ物方面の香りとは異なっています。薄めても薄めても、やっぱり「オエ~」となることは間違いありません。ドリアンを最初に食べた人は、果たして正気の持ち主だったんでしょうか。あるいはよほどお腹が減っていたのか。

時は流れ、タイにも旅行するようになり、露店でドリアンの山を見る度に「いいなぁ、いいなぁ」と指をくわえた子供のように立ち止まっている自分がいました。相変わらずその臭いには辟易としていましたが、学生時代の舌の記憶が鮮やかによみがえって、どうしても食べたくて仕方ありませんでした。ただ、ドリアンはホテルにも持ち帰れませんし、タクシーやバスへの持ち込みも大迷惑です。買ったが最後、その場で食べてしまうか、歩きながら頬張るしかありません。こうして、初めてのタイ旅行では、ついにドリアンを食べることはありませんでした。しかし、2度目の旅行で「今回はやけにたくさんドリアンを売っているなぁ」と思いつつ市場を歩いていたら、ある露店でドリアンがパカッと割られ、1房 (1サク) ずつ売られているのを発見しました (通常、1個のドリアンには5房の実が入っています)。

「ラッキー!」と小躍りしながら露店に近づき、さっそくひとつ購入すると、まずは臭いの確認。鼻を近づけると案の定、「オエ~、この臭いだぁ」と思わず眩暈がするくらい臭います。ちょっとむせながら、ビニール袋を少しずつめくり、おそるおそるパクリとひと口。甘い。相変わらず甘い。やっぱりおいしい!。あっという間に1房食べきると、もうひとつ買おうかどうかけっこう悩んだのですが、考えている間に出たゲップの臭いに我ながら気分が悪くなったため、結局断念しました。ドリアンの臭いって、すべてのやる気をなくす臭いですね。世をはかなむというか、自暴自棄になるような。こんなひどい臭いなのに、味はものすごく甘いってどういうことでしょう。本当に摩訶不思議な果物です。

実はこれ以降、タイで生のドリアンは食べていません。あの甘さは認めますが、やはり臭いがちょっと…。なので、その後の旅行ではもっぱら「さくさくドリアン」を買って食べています。これはドリアンの実をフリーズドライしたもので、臭いも正真正銘ドリアンです。メイド・イン・タイランドですが、缶のパッケージになぜか日本語で「さくさくドリアン」と書かれています。その実を口に入れると、まずフワッとドリアンの臭いが広がりますが、だいぶ薄まっているのでなんとか耐えられます。名前の通りサクサクの食感ですが、噛むとあっという間に口の中でトロトロになって、ドリアンの甘味を楽しむことができます。これはお土産にも最適です。好きな人にはたまらないでしょうし、場合によっては罰ゲーム的な使い方も…。

リヤドのスーパーマーケットにも、時々ドリアンが売られていることがありました。ある日、いつも行っているタミーミースーパーに入った瞬間、懐かしくも強烈な異臭に襲われ、たちまちドリアンがあることがわかりました。果物コーナーに直行すると、案の定10個ほどドリアンが並べられていて、それが何者なのか知らないサウジ人の眉をひそめさせていました。かなり迷いましたが、結局ひとつ買って帰り、その臭いに「オエ~」を連発しながら、なんとか実を取り出しました。しかし、正直なところあまりおいしくなかったですね。高かったんですけど。輸出品として、当然完熟するはるか前に収穫して流通に乗せるわけですから、よく考えたらおいしいわけがありません。大失敗でした。

この時は、念のためと思って買ったもうひとつのタイの思い出、「果物の女王」であるマンゴスチンを食べて、なんとか気持ちを落ち着かせることができました。マンゴスチンは果物の中で一番好きです。あの華やかな酸味と甘味のバランスが絶妙。半分凍らせてシャクシャクにして食べると、夏の風呂上がりなんかには最高です。

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