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2008年6月22日 (日)

パペチュアル・マイナー/サウジ女性に対する人権侵害報告 (1/3)

サウジアラビア人女性がガーディアン制度 (女性に対する男性の保護者制度) と男女分離政策により人権侵害を受けているとして、ニューヨークに本部を置く国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ (HRW)」が調査報告書を作成しました。

まず、2006年12月に3週間かけて女性の調査員がサウジアラビア国内 (リヤド、ジェッダ、ダンマン、アハサー) で109人の女性にアラビア語でインタビューを行い、2008年3月、報告書公開に先立ち、サウジアラビア人権委員会の仲立ちを得て、HRWとサウジアラビア政府関係者との間で内容の確認が行われたうえで、この度一般公開されたものです。

報告書のタイトルですが、Perpetual (永久の、終身の) Minor (次位の、二流の、重要でない、未成年) という表現は、まさに現在サウジ女性が置かれている状況をピタッと言い表した言葉だなぁと感心しますが、なかなか良い日本語が浮かんできません。結局、カタカナでそのまま書きました。

この報告書は、決してサウジアラビア政府を批判しているわけではなく、むしろロイヤルファミリーや政府が状況を改善しようと数々の法令の改定を行っているにもかかわらず、実際の運用がなかなか進まない現状をあばいています。保守とリベラルの舵取りの難しさ、もどかしさをひしひしと感じます。以下、報告書の概要を記しますが、英文報告書はHRWのウェブサイトで公開されています。

■女性の権利とイスラム
サウジアラビアはイスラムを国教とし、法律から教育、生活の規範まですべてをイスラムの理念に基づき制定しており、特に公序良俗に関しては勧善懲悪委員会によりコントロールされている。イスラムの宗教的価値観が、概して女性の自立を阻害していると言える。サウジアラビア宗教界は、1994年にカイロで行われた 「国連・人口と開発会議」 を認めていない。会議の議題である 「避妊、中絶、男女平等、男女共学」 が、神の法および自然の法に背いているからである。

サウジアラビア国内で、イスラム法に基づく公式見解 (ファトワ) を発出する機関である科学調査・法見解常設委員会 (CRLO) もまた、女性の権利阻害を助長している。例えば、女性が結婚を遅らせてまで大学教育を受けることが正しいかどうかという件に関して、CRLOは1990年代に次のようなファトワを出している。

「女性が大学教育を通して成長しようとすることは、我々にとって必要ないものと考えられるが、審議が必要な論点である。女性は小学校を卒業し読み書きができるようになれば、神の書物 (コーラン) と預言者の言行録 (ハディース) を読むことができるわけで、それで十分ではないかと考えられる。ただしこれは、その女性が薬学や関連の分野において他者よりも優れている場合は、男女共学など禁じられている事柄を破らない限り、該当しない」

また、イスラム法はどのように女性の就業を尊重しているかという問いに対して、CRLO は次のように回答している。

「神は女性が家庭を守ることを推奨している。女性が公共の場に出ることは、争い (フィトゥナ) が広がる原因である。イスラム法 (シャリーア) は、女性は必要な時のみ、ヒジャーブ (顔を隠す黒いスカーフ) をかぶりあらゆる事態を避けたうえで、家から出ることを許可している。しかしながら、一般的なルールでは、女性は家の中にいるべきである」

このように女性の人格を軽視した考え方は保守的な宗教指導者に多く見られるが、サウド王家は国内保守派とのパワーバランスを考慮しつつ、注意しながら宗教界とは異なる対応措置をとろうとしてきた。サウド外務大臣 (サウド王家プリンス) はHRWのインタビューに対し、「社会構造を壊さない限り、我々はどんな措置でもとる。しかしサウジアラビアはまだ若い国家であり、我々は国民の結束というものに非常に神経をとがらせている」 と答えた。

■ガーディアン制度 (女性に対する男性の保護者制度)
ガーディアン制度は他のどの政策よりも、根本的に女性の立場に影響を与えている。この制度は、次にあげるコーランの婦人章34節を誤って解釈していることから生み出されているものである。

「男は女の擁護者 (家長) である。それはアッラーが、一方を他よりも強くなされ、彼らが自分の財産から (扶養するため)、経費を出すためである。それで貞節な女は従順に、アッラーの守護の下に (夫の) 不在中を守る。あなたがたが、不忠実、不行跡の心配のある女たちには諭し、それでもだめならこれを臥所に置き去りにし、それでも効き目がなければこれを打て。それで言うことを聞くようならば彼女に対して (それ以上のことを) してはならない。本当にアッラーは極めて高く偉大であられる」

多くのイスラム学者が、イスラム世界におけるガーディアン制度成立の歴史を分析しているが、現代社会においてはその必然性は低いと考えている。現代は女性の経済的自立が可能であり、家庭の生活費を夫婦でシェアすることも普通に行われている。女性は男性に比べ、貧困、危険、搾取にさらされる可能性が高いとする意見もあるが、社会が混乱していた時代と違って、政府と権威が安全を保証する現代社会においては、ガーディアン制度はむしろマイナス要因である。

■男女分離政策
サウジアラビアはほぼ完全な男女分離政策をとっている、世界的にも珍しい国である。女性は男女が混在する公共の場では顔をあらわにすることを戒められており、勧善懲悪委員会 (宗教警察) が病院以外のあらゆる職場や公共の場で厳しく目を光らせている。宗教警察が公序良俗に反する行為 (婚姻関係にない男女が食事を共にすることなど) を見つけた場合、彼ら (彼女ら) を警察署に連行することが認められている。CRLOはこの政策の必要性を次のように述べている。

「イスラム社会では、男性が働く場所に女性を招き入れることは破滅をもたらす行為であり、男女を混ぜることは、最も危険な落とし穴 (誘惑) である。ジェンダーライン (男女間のある一線) を越えて男女を自由に接触させることは、不義密通の主な原因であり、モラルの崩壊と社会の破滅を導く」

しかしながら、こうした古い因習を現代社会に適用することは著しく女性の人権を侵害する行為であり、間違っていると言わざるを得ない。

■女性が教育を受ける権利の否定
サウジアラビアはこの50年間で、限定された範囲ではあるが女性の教育について目覚ましい進歩を遂げてきた。国連の報告書によれば、15才以上のサウジ女性の識字率は、1970年に16.4%だったものが、2005年には83.3%にのびている。一方で、「女性の教育はイスラムの知識を与えることと、良妻賢母にならせることが目的である」 という1969年に策定された古いポリシーが生きており、2002年まで女性の教育はすべて宗教指導局が監督していた。看護と教育分野以外、女性の教育は不要なものであるとみなされている。

ガーディアン (父親など男性の保護者) の許可がない限り、女性には進学や学科選択の自由がない。また、たとえそれをガーディアン自身がわずらわしいと感じても、彼らはたびたび学校に顔を出さねばならない。すでに結婚している女子学生の場合、夫は彼女の就学が家事に悪影響を及ぼさないことを証明するため、やはり学校に一筆提出しなければならない。

キングサウド大学の代表は、これは高等教育省のポリシーであって、大学側は女性の就学について何らガーディアンの許可を求めることはないとHRWに説明した。それどころか、男子生徒との接触を心配して女性の就学に反対する父親を、学長が説得したこともあると述べた。

国費留学については、高等教育省は女子学生に対し、留学前に結婚して夫を一緒に連れて行くか、あるいは他のガーディアンを同行させることを求めている。これによって近年、海外留学を希望する女子学生の増加にあわせて、「トラベル・マリッジ」 という現象が増加している。これは留学生の資格要件を満たすためである。

男女分離政策は、女性の教育にも深刻な影響を与えている。大学の女子校舎は、しばしば男子側よりも施設や教育機会において不平等を被っている。たとえばキングサウド大学では、女子学生は古い校舎と貧弱な図書館を与えられている。男子校舎にあるメインの図書館は、女子は週に1日しか利用できない。リヤドにあるキングファハド公共図書館は、女子は入館を許されていない。本を読みたい場合は、事前に申請書を提出し、代理の男性にその本を取ってきてもらうしかない。

大学のカリキュラムも、女子用のものは数と種類が限られている。サウジアラビアの大学卒業生の58%を女子が占める中、そのほとんどは教員養成大学である。政府は大学教育の拡充を図っているが、女子にエンジニアリング、建築、政治学を教える大学はないし、これらを教える男子のクラスに女子が入ることも許されない。名声を誇るキングファハド石油鉱物大学も、今のところ女子学生を入れる予定はない。キングサウド大学では、男子には14ヶ国の外国語教育を受けるチャンスがあるが、女子には2ヶ国語のみである。医科大学でも女子学生のカリキュラムは範囲が限定されている。

大学の女子校舎では、生徒が自分の意志で学校の敷地外に出て行くことは許されない。授業中はゲートが閉められ、認定されたガーディアンか代理の運転手のピックアップがあって始めて女子は外に出ることができる。寮に住む女子学生も同様に、認定されたガーディアンが来ない限り、たとえ病気であっても外出は許されない。つまり、ガーディアンに連絡がつかない限り、女子生徒の急病など緊急事態にも対応ができないのである。

2002年3月には、メッカの女子小学校で火災が発生し、宗教警察がスカーフをかぶっていない生徒が建物から避難して出てくることを阻止したため (と目撃者が語っている)、15人の少女が亡くなるという痛ましい事件が起こった。しかし教育省はこの事実を否定している。

(続く)

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コメント

はぁ~、ほんとに毎度のことながら読んでいてため息が出ます。エジプトも将来、サウジのようなイスラムに厳格な国になると思いますか?住む可能性があるのでご意見を伺いたいです。

投稿: marika | 2008年6月22日 (日) 07時45分

エジプトが将来サウジのようになるか。面白いテーマですね。今度アイデアをまとめてみます。

投稿: shukran | 2008年6月23日 (月) 02時18分

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