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2008年6月23日 (月)

パペチュアル・マイナー/サウジ女性に対する人権侵害報告 (2/3)

(1/3からの続き)
■女性が就業する権利の否定
サウジ女性は相変わらず労働力としてほぼ除外されている。サウジアラビアは世界でもっとも女性の就業率が低い国のひとつで、2004年に国連は世界のジェンダー配慮ランキングを発表し、政治・経済活動という点において、サウジアラビアを75ヶ国中74位にランクした。サウジ女性が国内の就業人口に占める割合は外国人労働者を含めると4%、サウジ人だけであれば10.7%である。

サウジ女性がインテリアデザインを除き技術短大でエンジニアリング分野の教育を受ける機会がないことは、サウジアラビアには自国人の女性エンジニアがいないことを意味している。また、女性裁判官、女性検察官、実務を行っている女性弁護士もこの国には存在しない。キングアブドゥルアズィーズ大学が2008年に女子として初の法学科卒業生を出す一方で、法務省は女性弁護士の実務認可を今後も行わない方針である。

サウジアラビアでは、政府系事務所でも民間企業でも、女性の就業にはガーディアンの許可が求められる。ある女性はHRWのインタビューに対し、教員として就職が決まり必要な書類をすべて整えていたにもかかわらず、学校側からガーディアンの許可証の提出を求められた経験を語った。労働省によれば、女性の教員 (現在の女性就業人口の大部分) については、遠距離を通う者も多いので、就業に際してガーディアンの許可証が必要であるが、医療関係の場合は概ね不要とのことである。

雇用主は、女性スタッフのガーディアンが退職を求めた場合、理由を問わず即刻応じなければならない。2006年に制定された労働法では、職場での男女の分離については特に触れられていないが、現状ではやはり厳然と分離が行われている。この新しい労働法では、「すべてのサウジ人労働者は、国内のあらゆる分野において平等に働く権利を有する」 とうたわれているが、労働法の別の箇所では、「イスラム法を遵守し、女性は天分にあった分野で働くこと」 という相反することが書かれている。

男女分離政策は、雇用主にとっても負担が大きい。つまり、女性専用の施設 (出入り口、部屋など) を作ること、交通手段を確保すること (女性の運転免許取得と運転は法律で禁止されている)、あるいは必要な交通費を給料に上乗せすること、政府事務所においては男性の監督なく女性だけでは業務が行えないことなどである。

2005年に閣僚委員会は女性の就業機会増加を提言した。その中で、女性関連製品を扱う店ではサウジ女性のみが就業できると規定されているが、宗教界からは強い反対を受けている。労働大臣はHRWのインタビューに対し、「我々は女性の就業を推し進めようとしているが、社会的慣行を壊さない方法が必要である。最初は女性の衣服や下着を売る店舗から始め、まず国民の支持を得たいと考えている。このアイデアに猛反発を受けていることに、我々も驚いている」 と語った。

■女性が健康である権利の否定
サウジ女性の健康に対する権利が、ガーディアン制度によって危うくなっている。いくつかの病院では、女性あるいはその子供について、入院、退院、治療の際、ガーディアンの許可を求めている。こういった医療行為についてガーディアンの同意が必要であるという法的な根拠はないが、病院の経営陣に宗教色が強いかどうかで対応が分かれる。法律上、女性が18才以上であれば自らの判断であらゆる医療行為が可能であるが、様々な社会的要因があって、法律の遵守が阻害されている。現在求められていることは、女性が自ら健康である権利を有するのだと人々に啓蒙することである。法律はある。あとは実行するだけである。

サウジアラビアの医療現場をあまねく取り囲んでいるガーディアン制度であるが、すべての医療従事者が法を犯さず (ガーディアンの許可など求めず) その責務を果たすよう、保健省が強い指導力を発揮すべきである。現在、保健省のガイドラインで唯一ガーディアンの同意が必要な医療行為は、不妊につながるものだけである。ある病院で子宮頸ガンが発見された女性がいたが、手術のためにはやはり夫の許可が必要であった。手遅れにならないためにも、女性が自身で即断できることが望ましい。

陣痛を起こしている女性がガーディアンなしに病院を訪れた場合、病院側はそれが正統な結婚による妊娠であるか、不貞の結果あるいは暴行によるものであるか、慎重に判断せざるを得ない。妊婦がガーディアンと一緒に病院を訪れ出産した場合、退院時は誰と一緒でもかまわない (使用人でもよい)。もしガーディアンなしで入院し出産した場合は、それは警察の事件扱いとなり、退院には必ずガーディアンが必要である。もし誰も来なければ、彼女はずっと病院から出られない。

ある病院関係者の話によれば、今から2年前、彼女の病院に陣痛を抱えた女性が訪れたが、それは緊急の帝王切開が必要であった。ガーディアンは海外出張中で許可が出せなかったため、担当医が個人の責任で手術を行った。夫が出張から戻ると病院に駆けつけ、両者の間でつじつまが合うように執刀日の修正 (偽造) を行った。

■女性が暴力にさらされる危険
ガーディアン (主に夫のケースが多い) の暴力を受けた女性を治療しても、病院としては家に戻ってもらうしかない。警察もまたそのようにアドバイスをする。警察は家庭内暴力を表沙汰にすることを好まない。被害者にもそのことを伝え納得させている。

ガーディアン制度がある限り、男性 (夫や父) から女性 (妻や娘) に対する家庭内暴力を法的措置によって是正することは不可能に近い。警察は往往にして女性の被害者に対し、たとえ加害者がガーディアンであったとしても、苦情や保護を受けつける際にはガーディアンの許可を求めている。ある病院で、夫に銃で撃たれ2度入院した女性がいた。それでも警察は夫 (ガーディアン) の許可がなければ事件として扱えないと説明した。この女性は3度目に撃たれて入院し、そのまま病院で亡くなった。

家庭内暴力を犯罪とする法律については未だに立法化されておらず、ガーディアン制度がある限り、常に女性と子供が暴力の危険にさらされていると言わざるを得ない。サウジアラビアで唯一の独立した (と解釈できる) 人権団体の代理人によれば、父親など家庭内暴力の加害者となった男性からガーディアン権限を剥奪することは、この団体が扱う諸問題の中でもっとも難しい法手続きをともなうものであり、これまでにそれが成功したケースはわずか1~2%だけである。父親が娘に性的暴行を加えていたケースでは、ガーディアンを剥奪するまで裁判に5年の歳月を費やした。

5人の娘に性的暴行を加えていた父親のケースでは、娘の1人が耐えかねて警察に相談に行ったが、それを正式に受け付けるためにはガーディアンの同行が必要だと説明され、娘はあきらめて家に戻るしかなかった。この国では暴力から女性を守る法律がない。毎日こういった事件は発生している。病院ができることは治療行為だけである。

また、男女分離政策は、女性が警察に駆け込むことを躊躇させている (警察官は男性ばかりである)。女性が家から警察に電話することさえ、ガーディアンがいない場合は躊躇せざるを得ない。女性がガーディアンなしに警察に歩いていくことなど、実際には無理である。

■法の下に男女が平等であることの否定
世界中のほとんどすべての国の政府は、未成年者および精神的な問題がある者についてのみ、自身で物事を判断し決定する権限を与えていないが、サウジアラビアでは、政府はこの制約をすべての女性に適用している。そのため、サウジ女性はガーディアンなしには裁判所などへアクセスすることさえできない。裁判所は、女性の証言は犯罪の証拠として認めていない。ある女性は、裁判所で女性が声を発することは恥ずべき行為であると戒められたそうである。サウジアラビアの法廷では、通常は付添人が女性の代わりに発言をしている。

法務省は、もし女性がベールで顔を完全に隠していれば、裁判所に出廷し証言することができるとしている。裁判官によってもまちまちだが、女性が証言する時は大声を発したりあまりにも女性的な雰囲気で話すことは慎むべきだとされている。サウジアラビアの裁判所では、全身を黒い外套で包んだ女性が確かに当人であるかを確認するため、男性が付き添わなければならない。これは女性がIDカードを出すだけではだめである。裁判官によっては、女性は信頼性に欠けるためそもそも証言の能力がないと考える者もいる。

ガーディアン制度は、法的なパラドックスを抱えている。女性があらゆる違法行為に関与できるとしながら、女性には一切法的な責任能力が与えられていないのである。実は、サウジアラビアは女性の犯罪責任について下限年齢を設けていない。女性が加害者となる犯罪事件において、その少女が何才から大人とみなされるか法的に定められてない中、宗教界は殺人事件については思春期 (12才) が大人の境目であるという見解を示している。

サウジアラビア政府が、生涯を通じて女性に対し何一つ自ら決定する権限を与えていない状況において、思春期という低年齢時に、彼女たちに行動の責任を負わせることが果たして正しいことなのだろうか。「女性が犯罪を犯せば男性と同じく責任を問われる。しかし女性が自分自身のことや経済活動を行おうとすれば、それはできない」 ある女性はこのように嘆いた。

(続く)

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