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2008年7月 4日 (金)

人口過剰は貧困の原因か

ロイター通信によれば、エジプトが深刻な人口問題に悩んでいるそうです。ここ何年も経済は発展を続けていますが、人口増加のペースにまったく追いついていけません。ムバラク大統領が就任した1981年とくらべると、人口はほとんど2倍になりました。エジプトの国土は広大ですが、人が住めるのはナイル川沿いのわずかなエリアだけです。その面積はスイスとほぼ同じで、スイスの人口は750万人ですが、エジプトはその10倍、7,600万人がひしめき合って暮らしています。

エジプトはアラブ諸国の中ではもっとも早くから家族計画を提唱してきました。かれこれ30年はそうした政策を続けているのですが、やはり着実に人口は増え続けています。エジプト人の20%は1日1ドル以下の収入、いわゆる貧困ラインを下回る生活を送っています。しかも、国の経済発展にともない、もう10年以上もインフレが続いています。世界の人口は2050年に92億人になると予想されていますが、その多くは発展途上国が占めると言われています。今のままでは、エジプトもそちら側に入ってしまうことは確実です。

実のところ、エジプト政府が家族計画に躍起になっているのとはうらはらに、一般民衆は懐疑的な見方をしている人がほとんどです。その中でも、「子供は神様からの授かりもの、人間がコントロールするものではない」 という意見が多いのはイスラムならではでしょうか。また、エジプトは女性の社会進出がそれなりに進んでいるとはいえ、その割合は就業人口の22%を占めるに過ぎません。夫婦共働きの家庭にくらべると家族計画をする意識が低く、今も1人の女性が生涯に生む子供の数は3.1人、国民の38%は15才以下です。

エジプトは降雨量もほとんどゼロ、水不足と耕作地不足は火を見るよりも明らかですが、政府はこれといって有効な施策を打つことはできませんでした。イランは1990年代に出産優遇政策を廃止したため、人口抑制に成功したと言われています。エジプトの場合はすでに食糧不足で暴動が起きている状態ですが、イランと同じ措置をとったら国民に猛反発をくらうことは目に見えています。

エジプトはアラブの農業大国で、そのため農民は労働力として十分な数の男子が得られるまで子作りを続ける傾向にあります。しかし耕作できる土地は限られていますから、必然的に収入および生活レベルの低下を招いています。最近では食料品の輸入も増加しており、農民はますます出費を強いられています。エジプト政府の見込みでは、このペースで人口が増え続ければ2050年にエジプトの人口は1億6,000万人になるそうです。現政権は、これを1億人程度にとどめたいと考えています。

エジプトは1959年にスーダンと協定を結び、ナイル川の水を年間555億トン利用する権利を得ましたが、現在それ以上の量を使っていることは間違いありません。スーダンの内政が安定し水の産業利用が本格化してきたら、エジプトは壊滅的な打撃を受けることになるでしょう (戦争になるかもしれません)。また、さらに上流のナイル流域諸国とはだいぶ前からナイル川の水利権の調整を続けていますが、どの国にとってもゆずれない一線なので、交渉は難航を極めているようです。

東京23区の人口密度が13,500人/km2、マンハッタンが27,000人/km2なのに対し、カイロのもっとも過密している地域では41,000人/km2に上ります。政府はこの問題のひとつの解決策として、南部の砂漠を緑化して340万人が住む町を作ろうというトシュカ計画を進めています。しかしそのためには毎年50億トンの水が必要になると言われているので、今でも水がたりないエジプトにとっては、スーダンの安定と発展 (にともなう水利用の増加) は最大の脅威です。エジプトに限らず、中東ではいつどこで水戦争が勃発してもおかしくない状態です。

海外に職を求めるエジプト人は毎年数万人以上に上ります。向かう土地はヨーロッパ、リビア、湾岸産油国。ヨーロッパには運賃が安い船で行く人が多いのですが、その船旅で毎年何人も命を落としているのは、皮肉としか言いようがありません。ムバラク大統領は常に明言を避けていますが、エジプト政府としては、理想の子供の数は2人だと言っています (人口維持には2.1人必要)。もし大統領がこんなことを言ってしまったら、イスラムの教義に反するということで大規模なデモが起きるでしょう。

ということで記事は結ばれていますが、未だにムバラクというのが一番の驚異かもしれません。エジプトは革命後、大統領が生前に交代したことはないんですよね (暗殺か突然死)。そりゃゆがむでしょう、いろいろ。

ちなみに、この記事では人口過剰がエジプトの貧困問題の原因という切り口で書かれていますが、本当にそうでしょうか?。世界的には、というか欧米では、アジア・アフリカの貧困の諸悪の根源は無計画な出産にともなう人口過剰と断定しているようなところがあります。そのため家族計画にはとても熱心で、エジプトでもエチオピアでも欧米人が政府からNGOまでいろいろ啓蒙活動に励んでいました。

しかし、労働力が増えるということは、間違いなく有利なはずです。あらゆるプロダクトの増産が期待できるし、数に淘汰される中で確実に頭角を現してくる者がいるはずだからです。食糧不足にしても、国内のある所にはあり余っているのが現実でしょうから、それを流通させる道路を整備するとか、出し惜しみして値段をつり上げている業者を摘発するとか、政治で解決できる部分は多いと思います。

欧米の団体も、政府の無策をなんら告発せず国民にだけ負担を強いるのは間違っているのではないでしょうか。特に家族計画は信仰の点からいっても極めて個人的な問題です。欧米人にとっては善意以外の何ものでもないでしょうけど、現地の人々にとっては往往にして大きなお世話と映るかもしれません。ただ、結局もっとも苦しむのは弱者中の弱者である子供だという現実は、なんとしても是正しなければならないと感じます。

「責任が持てないなら産むな」 と主張する欧米の団体。「産む限りは責任を持て、そのために援助する」 というアプローチはできないものでしょうか。アメリカの外国援助法のように、「援助するから人口を減少させろ」 というのは、さすがに大国のおごりではないかと思います。

ついでに、人口過剰に対する偏見をいくつか。

■地球は人であふれてしまう。
(現在、人間が占める面積は地球表面の1~3%)
(2050年の世界人口予想は年々数が減っている)

■人口過剰は環境破壊を招く
(人口密度1,600人のオランダより330人の中国の方が深刻)
(人口よりも政府のポリシーの問題)

■毎年ベルギーふたつ分の森が伐採されている
(もとともベルギーは世界の熱帯雨林面積の500分の1)
(世界の森林面積は40億ヘクタール、地球表面積の30%で1950年代と変わっていない)

■大気汚染は人口過剰が原因
(人口密度が高いドイツの空気はとてもきれい)
(人口よりも政府のポリシーの問題)

■人のせいで動植物が毎年たくさん絶滅している
(いくつ種がありいくつ消え去っているのか誰も把握できない)

■人口過剰により食糧危機が起きる
(世界の1人あたり農業生産量は増えている)
(人口よりも国内あるいは国際的な流通の問題)

■人口過剰は貧困の第一の原因
(アフリカの人口密度はヨーロッパの5分の1)
(途上国の経済問題の原因は、政府の過度の支出、政府による農作物買い取り価格の低さ、物価統制、商業規制、高い税金、インフレ、機能していない計画経済、政府所有権の多さ、軍事費過多、外国の援助が国民に還元されない政府機構の弱さ、官僚の汚職などなど)

つまるところ、途上国の貧困は人口過剰よりもむしろ政治の問題であり、ましてや地球の環境破壊は一部の国による経済優先で規制のないやみくもな工業政策がもたらす影響の方がはるかに大きいと言えるでしょう (アメリカや中国など、たぶん日本も)。なので、途上国の人々に対して 「貧乏人は子を産むな」 などと言う権利は誰にもないのです。

………だけど、自分たちでもうちょっと考えようよ。>エジプト人

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