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2008年12月15日 (月)

犬とロバ

ブッシュ大統領の電撃的イラク訪問は、ひとりのイラク人記者により、アメリカに対するイラク人の国民感情が露呈してしまった結果となりました。クツを投げつけ 「犬!」 とののしったそうですが、アラブ世界で犬 (カルブ) は最高の侮辱の言葉だと言われています。学生時代にインドネシア人の友達から、インドネシアでも犬 (アンジン) はひどい侮辱の言葉だと聞きましたから、イスラム圏では全般的に犬はあまり良く思われていないようです。誰彼かまわずシッポを振るところが、イスラム教徒のお気に召さないのでしょうか。もっとも、日本でも犬畜生なんて言葉がありますが。

ただし、これまで長くアラブで生活していますが、実際に犬とののしっている場面に出くわしたことはありません。それよりもよく聞いていたのが 「ホマール (ロバ)」。特にカイロでは日常的に耳にしていました。ロバはエジプト人からあんなにこき使われているにもかかわらず、人間の命令に盲目的に従う様がひどく軽蔑の対象になっています。まったくむくわれませんね。でも、確かにカイロの大通りをてくてく歩くロバ車によって引き起こされる 「ロバ渋滞」 に何度も遭遇し、その度にもうちょっと頭を使って動けよとロバを恨めしく思ったものです (実際にはロバを使う人間の方が悪いんですけどね)。

カイロに赴任してアパートを探していた時のこと、不動産屋の車に同乗して物件を見に行きました。道中はいつものごとく大渋滞。ただでさえ混んでいるのに、右から左から割り込んでくる車が後を絶たず、なかなか前に進めません。不動産屋にイライラがつのっていくのが手に取るようにわかりました。30分ほどのろのろ走った後、少し空いたところで不動産屋がすかさずアクセルを踏み込むと、車は一瞬加速しかけましたが、すぐに右側から車がググッと割り込んできて、中央分離帯の切れ目をめがけて無理矢理Uターンしようとしました。当然そんなに一気に行けるわけもなく、その車はこちらの目の前で真横になったままピタリと止まってしまいました。

不動産屋は40代の品の良さそうな女性で、それまでは車中でも 「カイロは渋滞がひどくて外国人には目が点でしょ」 などと穏やかに話していました。しかしここで怒りがピークに達したのか、やおら窓を開けると左腕を突き上げ 「ホマール!、ヤー、ホマール! (ロバ!、おい、このロバ野郎!)」 と相手をにらみつけ大声で怒鳴りだしたのです。その迫力たるや鬼子母神もかくやという勢い。相手の運転手は肩をすくめただただ正面を見つめるのみ。その車が行きすぎるまで、不動産屋はひたすら罵声を浴びせ続けました。せいぜい1分くらいでしたが、なんだかとても長く恐ろしい時間でした。

サウジアラビアでもやはりロバは禁句です。最近新聞に載っていた話ですが、ある20代の女性が友人の家にいて夫の出迎えを待っていた時のこと、あまりに遅い夫にイライラして何度も携帯に電話をして文句を言っていると、最後に友達に向かって 「本当に夫は要領が悪くて、ホマールなんだから」 と口走ってしまいました。不幸にも、携帯の通話が終わっておらず、その禁句は夫の耳にも入ってしまいました。しばらくして彼女の携帯にメールが入り、そこには 「離婚裁判所で会おう」 という夫からのメッセージがあったそうです。おそらくホマールは離婚の条件になり得るほどの罵詈雑言なんでしょう。

ということで、何よりも名誉を重んずるアラブ人に対して、絶対にホマールやカルブなんて言ってはいけません。ちなみに、エジプト南部 (上エジプト) 出身者のことを 「サイーディー」 といい、田舎者の代名詞になっています。よくノクタ (冗談) の登場人物にされ馬鹿にされていますが、どちらかというと愛すべき存在のようです。悪口なのかどうかはその場の雰囲気によるでしょう。先月リヤドのダウンタウンにあるマスマク城に行った時、エジプト人の入場者にサウジ人の警備員が 「お前はサイーディーか?、ガハハ!」 となんだかえらく陽気に話しかけていましたが、たぶん、親愛の情だったのかなと。

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