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2014年5月11日 (日)

大平村の鎮札神社

~昭和三年「鎮札神社由来略記」より~

◎サンケロウ
今から三百年ほど昔のこと。駿河の国、興津川上流の大平村に、産労(サンケロウ)という病が流行りました。サンケロウは妊産婦のみが死亡する恐ろしい病気です。村人が懸命に祈祷を行ったり、薬を与えたりしても何の効き目もありませんでした。

大平村には赤ん坊が一人もいなくなり、若いお嫁さんもいなくなってしまいました。村は死んだように静まり返り、皆ため息をついては嘆き悲しむばかりでした。こんな有り様でしたから、大平村に嫁入りする女性など誰もいませんでした。

◎大徳院と九尾の狐の戦い
大平村の柚能(ゆの:現在の湯野)に大徳院という祈祷師がいました。流行り病を案じた大徳院が身を清めて占ったところ、武田氏の怨霊が大平村を滅ぼそうと、九尾の狐となって祟っていると表れました。

大徳院は七日間、斎戒沐浴して身を清めると、二十一日間、飲まず食わずでこの九尾の狐を退治するため、念じ続けました。この間は実に血の出るような戦いで、大徳院は三度も卒倒しましたが、ついに九尾の狐は力尽き、箱に封印されました。

箱は地中深く埋められ、村はふたたび明るさを取り戻しました。妊婦が見られ、赤ん坊の元気な鳴き声が沈んでいた村の空気に活気を与えました。

◎大徳院の死
それから丸三年が経ちました。九尾の狐の祟りによる悲惨な出来事もようやく忘れられようとしていたある夏の夜、大徳院が便所に立って、雨戸をたぐり何気なく外を見てみると、一丈余りの妖怪が、今にも大徳院に飛びかかろうとしていました。

大徳院はあわてず静かに雨戸を閉じると、家の中から妖怪に向かって呪文を唱え、九字(身を守るまじない)を切りました。そしてそのまま寝床に入りましたが、翌朝起きてみると、取り入れ忘れた大徳院の浴衣が、竿にかかったまま九字の形に切れていました。

(大徳院の子孫には「夜洗濯物を出しっぱなしにしてはいけない」という言い伝えが現代にまで継がれています)

大徳院はそれから間もなく病気にかかり、ついには亡くなってしまいました。村人はとても悲しみ、盛大な葬式をとり行いました。

◎九尾の狐再び
その年の初秋のことでした。二百二十日の天候が大荒れに荒れ、暴風雨が三日三晩続きました。四日目は打って変わって晴天になったので、百姓たちは田畑の被害を見回るため野良へ出かけました。

大平村から二里(8km)ほど川下に和田島という村がありました。その村の百姓が二人で田んぼの見回りに行くと、流された橋杭に立派な箱が引っかかっていました。二人は力を合わせてやっと箱を拾い上げました。

他の人に知られないよう、夜になってから二人は箱の封を切りました。するとたちまち一人が倒れてしまいました。慌てたもう一人が介抱してやっと息を吹き返したのですが、火のような高熱とともに、「川上へ送れ、川上へ送れ」とうわ言をくり返していました。恐ろしくなった百姓は、箱を川上の庄屋送りとしました。

不思議なことに、その箱を受け取った家の者は必ず熱病にかかりました。箱を次の川上の村へ送れば熱病が治るので、箱は順々に大急ぎで川上へ送られ、ついに大平村まで送られてきました。大平は一番川上の村なので、もう送るところがありませんでした。

大平村では、熱病ではなく「サンケロウ」が再び流行しだしました。村人はどんなに驚いたことでしょう。

◎鎮札神社勧請
困った村人たちは水神宮の森で村の総寄合を開きました。話し合いの結果、京都に上って霊験あらたかな神様にお越しいただいて、その力にすがることに決まりました。しかし誰が行くかとなると、その人選がまた容易ではありません。一月毎日寄合っても決定しませんでした。

そこで山本元右エ門が「こんなことではいつまでたっても駄目だ。よし、俺が行く。源兵衛、お前もひとつ一緒に歩け」と言いました(元右エ門は昭和初期当時の神主の先祖で、源兵衛はその分家です)。元右エ門と源兵衛の二人は夜も寝ずに京都に参り、神司にその訳を話しました。

神司は二人の熱心さに同情し、神功皇后、日本武尊のニ柱を御神体として「鎮札宮」の呼び名と共に下されました。そして「あらたかなる神ゆえ、途中下に置いてはならぬ」と申されました。二人は夜宿に泊まっても、一人が寝ると一人が御神体を捧げ持っているようにして、大平村に戻りました。二人が大平村を出てから三月がたっていました。

二人が持ち帰った御神体は、村の中央東山の山麓に場所を決め、「鎮札神社」として祀られました。それからはこの村に再び災いが起こることはありませんでした。

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