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2020年5月20日 (水)

タイ映画鑑賞:トロピカル・マラディ

「トロピカル・マラディ」は2004年のタイのドラマ映画です。後年「ブンミおじさんの森」でカンヌ映画祭パルムドールをとることになるアピチャートポン・ウィーラセータクン監督の作品。叙情的で寓話のような語り口の本作はカンヌで審査員賞をとり、またこの年のカイエ・デュ・シネマ誌の年間ベストワンにも輝きました。

※カイエ・デュ・シネマはフランスの映画批評誌で、アメリカのハリウッド映画 (の大作) は入りにくく、フランスを中心としたヨーロッパやその他の国の作品 (どちらかというとストレートな娯楽作品よりはひねりの効いた作品) が選出されやすく、 アピチャートポン監督は常連です (本作、ブンミおじさん、光りの墓などほとんど選出)。

本作はふたつのパートに分かれています。前半はタイの地方都市で森林警備隊を務めるケンと、森近くの村に住む青年トンが、出会い、惹かれ合うストーリー。

「またゲイ!?」と思わないでもありませんが (タイ映画のゲイというかLGBT率は非常に高い)、別に美青年同士でもないわりに、二人のたたずまいは違和感なくスッと気持ちに入ってきます。

二人は無邪気というか、きっと魂で惹かれ合っているんだろうなと、そう思えるような自然な絡み具合。いや、そんなに深い描写はありません。マックスでも最後にちょっと立ちションの後トンの拳をペロペロ舐めるだけ。(不思議と「オエーッ!」とはならなかった)

前半で何か大きく物語が動くわけではありません。ケンとトンの日常が淡々と綴られていきます。画面は雑然とした街並みが多いし、感心するような仕掛けもないのですが、なぜか、見入ってしまいます。そして物語は後半へ。

後半は、森林警備隊員 (ケンの俳優) がシャーマンの霊を宿したトラを追って森をさまようストーリー。シャーマンはいろいろ姿を変えることができ、人間の姿の時はトンの俳優が演じています。ケンともみあって、ケンを急斜面から突き落としたりもします。

その後なかなか森を抜け出ることができないケン。開けた場所に出ても険しい岩だらけの涸れ川だったり、獣に食い殺された牛を見つけ恐怖を感じたり。

再び森に分け入ったケンは、猿の導きを得ます。トラはケンに殺されることにより幽幻界から抜け出ることができる、あるいは、ケンがトラに食い殺されることにより、ケンがトラの世界に入れるのだそう。

身体に泥を塗りたくり、小川の貝や魚を貪り食うケンは、そうして準備を整えると、ついにその日の夜、暗闇の先に気配を感じ銃弾を放ちました。しかしそこに倒れていたのは1頭の牛でした。

側の大樹が光を放ち (ホタル?)、抜け出た牛の魂の後を歩いてついていくと、「私を待っていろ」という声が聞こえてきました (実際は字幕のみ)。力が抜け、がっくりと膝を落とすケン。ここからのシークエンスがちょっと複雑です。

そのまま四つん這いで歩き始めたケン。鳴り響く虫の声。暗闇に浮かび上がるトラの顔。シャーマンについてのナレーション。導きの猿。一瞬時間がさかのぼりケンが森に迷い込む前の場面。そしてまた四つん這いのケン。山の遠景。銃声。

四つん這いで毛づくろいのような動作をしていたケンは、急に我に返ったようにポケットからナイフを取り出すと、ついにトラと対峙しました。ポケットから取り出したナイフを手に、ふるえながら樹上のトラを見つめるケン。

ここで語り。「そして私は自分自身を見出した。母、父、恐怖、悲しみ。それはとてもリアルで、私に命をもたらした。私がお前の魂を食らえば、私達は獣でも人間でもなくなる。呼吸を止めろ。寂しくなるよ、ソルジャー」 夜の森。暗転。

さらに語り。「化け物よ、私は肉体と魂を差し出した。そして私の記憶も」 画面はトラと人間がつながる絵。再び語り。「私の血が滴るたびに歌を歌う。幸せの歌を。お前には聞こえるか」 夜の森。虫の声。木々のざわめき。暗転し終劇。

映画の冒頭、中島敦の『山月記 (昭和17年)』の一節が引用された後、山で遺体を回収するケンたち森林警備隊、山を歩く裸の男、立ち寄った村で食事を施されケンがトンと出会うシーンなどが描かれます。

時間的には "後半→前半" と考えるのが自然でしょうか。ケンがトンに惹かれ、トンも自然に彼の気持ちを受け入れたことに合点がいきます。ストーリーがつながり、運命の環の完成を見ました。

エンドロール (キャスト紹介) もBGMは森の音 (木々のざわめきと虫の声)。この監督、森に並々ならぬこだわりがあるのでしょう、さすがのひと言です。この余韻は、"完全には理解できなかったけれど何かすごいものを観た" という感想につながりました。もう1回最初から観てみよう。

※「ブンミおじさんの森」の感想はコチラ

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